
上野の東京国立博物館で開催している、特別展『顔真卿ー王羲之を超えた名筆』に行って来た。台湾の國立故宮博物院から唐時代の書家、顔真卿の『祭姪文稿』が、はるばるやってきたのである。
この日は日曜日だったので混雑を覚悟はしていたが、案の定、特別展を開催している「平成館」に入るまで約40分、『祭姪文稿』を見るためにさらに約100分待つこととなった。
計140分、『祭姪文稿』を観た時間10秒。
実物の『祭姪文稿』は素晴らしいとは思ったが、たった10秒では、顔真卿の悲しみと怒りに満ちた筆遣いを(感じようと思っていたのだが)ほとんど感じることは出来なかった。これでは「鑑賞」ではなく、まさに「見る」だ。
待ち時間というと、ディスニーランドが頭に浮かぶ。しかし、ディズニーランドの場合は。同じく140分待っても、その後、アトラクションの何分間かの楽しみの時間があることを思うと、今回の140分間は「空しかった…」と言わざるを得ない。
それにしても、「春節」で日本を訪れているであろう中国の人が多いこと。「何で日本に来てまで顔真卿?」と思ったが、中国の人にとっても、顔真卿の『祭姪文稿』は、一生に一度は見てみたいという名品なのだ。劣化の関係で、最近は所蔵先の國立故宮博物院ですらなかなか展示されることのない名品なので、この企画が発表された時には、なぜ日本で?という論争が中国で起こったくらいだ。つまり、顔真卿の『祭姪文稿』は中国の人たちにとっても、大切な宝なのだ。
そう考えると、中国の人もなかなか見る事の出来ない中国の宝を、たった10秒でも拝むことが出来たことに満足せねばなるまい。
その他の書道関係の展示も素晴らしかった。こちらも、有名作品の前には人だかりがあってうんざりしてしまったが、人を押しのけてでもじっくりと鑑賞したいところだった。『祭姪文稿』にこだわらないならば、100分間をこちらの展示に回すのもありかもしれない。しかし、メインディッシュを食べないコース料理は考えにくい。
所長はそんな混雑の中で、大好きな「米芾」(べいふつ)の作品をじっくりと見られて、いや、鑑賞出来て良かった。何と、米芾の作品の前には誰もいなかった。米芾ファンとしては、かなり寂しかったが…